なぜ要件漏れは起きるのか

—まだ表に出ていない“企業の声”がある—

プロジェクトを進めていくと、要件漏れは突然姿を現します。
会議では問題なかったはずなのに、後になって「前提が違った」と気づく。
どの企業でも起こり得る、静かに積み上がるズレです。

このズレは、怠慢や確認不足から生まれるものではありません。
もっと根源的な“企業の性質”が影響しています。


■ 業務には“身体化された判断”がある

人は長く同じ業務を続けるほど、作業は「考える」から「感じる」へ変わります。

この順番で処理するのが普通だと思っていること。
どの部署に先に声をかけるか、自然にわかっていること。
例外処理は書かれていないけれど、誰もが同じように動いていること。

こうした“身体に染みついた判断”は、本人にとってはあまりに自然で、説明の対象にすらなりません。
そしてそれこそが、要件として最も抜け落ちやすい領域です。


■ ヒアリングでは“表面”しか掬えない

ヒアリングは大切ですが、出てくるのは目に見えている情報が中心です。

その手順がなぜ存在するのか。どの場面で判断が揺らぐのか。
何を“本当は”負担だと感じているのか。

こうした“業務の裏側”にある理由は、質問された側が自分の中でも整理できていないことが多く、
自然と表に出てきません。

背景が言語化されていないまま、表側だけの要件が並んでいく——
要件漏れはそうして生まれます。


■ 企業文化が生み出す“文脈”は文章化されていない

企業には、その企業だけが持つ価値観や空気があります。

どの部署がキーパーソンか。どの時期に仕事の流れが変わるのか。
判断のスピード感や優先度。暗黙の「こうしておくと円滑に進む」作法。

これらはマニュアルには書かれません。
言葉ではなく“空気”として受け継がれるものであり、外部の専門家が短期間で触れるのは難しい領域です。
この文脈こそ、要件の背景を形づくる重要な要素です。


■ 要件とは、“最初から完成していないもの”

要件は、最初のヒアリングで揃うものではありません。
関係者との対話を通じて、曖昧だった部分が少しずつ輪郭を帯び、
背景の理解が深まるほど、真のニーズが明らかになります。

つまり要件とは、最初から取りこぼしのない形で存在するものではなく、
潜在的なものから”引き出す”ものなのです。


■ 要件漏れは情報の質が悪いから起きるのではない

要件漏れは、誰かの確認不足でも、説明不足でもありません。

“まだ表現されていない情報が残っていた”——
ただ、それだけのことです。

顕在化していないニーズがそこにあり、まだ言葉になっていなかっただけ。

要件漏れを防ぐ鍵は、
その“声になっていない部分”を見つけられる人がいるかどうか
それを言語化できる人がいるかどうか
ただそれだけです。


■ そして、この役割を担えるのが“社内ビジネスアナリスト”

ビジネスアナリストは、ユーザー企業の内部にいるからこそ強い。

企業文化に触れ、現場の空気を知り、部署同士の関係性や判断の癖を理解している——
これは外部のコンサルタントには到達しにくい領域です。

社内のビジネスアナリストは、企業固有の文脈の中でまだ言葉になっていないニーズを
自然に拾い上げ、背景と意図を整理し、共通の理解へつなげます。

要件を書くのではなく、
要件が生まれる“土台”を整える役割。

これが社内ビジネスアナリストの最大の価値です。


■ まとめ

要件漏れは“誰かのミス”ではありません。
まだ言語化されていなかった情報が、そこにあっただけです。

そしてその情報を拾い、企業固有の文脈を踏まえて整理し、ニーズを形にできる存在——
それが社内のビジネスアナリストです。

プロジェクトの質を左右するのは、正確なヒアリングよりも、
“表に出ていない情報を拾える人がいるかどうか”。

その一点にかかっています。


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